・武満徹:3つの映画音楽

武満徹は、過去に担当した多くの映画音楽から3曲を取り出して『3つの映画音楽』を1994-95年に作曲した。

第1曲-映画『ホゼー・トレス』から「訓練と休息の音楽」は、勅使河原宏監督による1959年の記録映画で、訓練の音楽・試合前の音楽・休息の音楽が組み込まれている。

第2曲-映画『黒い雨』より「葬送の音楽」は、1989年の今村昌平監督作品、井伏鱒二の小説が原作。原爆による被災後の広島市中を通り抜けるシーンと、原爆症で髪が抜け落ちるシーンの音楽で、前衛的要素がみられる。

第3曲-映画『他人の顔』よりワルツは、安部公房の小説を原作とした勅使河原宏による映画で、哀愁漂うワルツだ。

・ジャコモ・プッチーニ:弦楽四重奏曲「菊」 (弦楽合奏編)

『菊』は、プッチーニの数少ない室内楽曲のひとつである。1890年、彼のパトロンでもあったサヴォア家のアマデオ公爵の死を追悼するために一晩で書き上げた。イタリアでは追悼曲としてしばし演奏される。物憂げな旋律は、のちの彼のオペラ「マノン・レスコー」にも転用された。

・オットリーノ・レスピーギ:リュートのため古風な舞曲とアリア第3組曲

『リュートのための古風な舞曲とアリア』は、レスピーギが作曲した3集の組曲で、古いリュートのための曲を、オーケストラや弦楽合奏のために編曲したもの。彼がサンタ・チェチーリア音楽院教授を務めていた頃、図書館で古い時代の楽譜を研究した成果が基となっている。今回演奏する第3組曲は、 1931年の編曲で、イタリアーナ(作曲者不詳 16世紀頃)・宮廷のアリア(ジャン=バティスト・ベサール作曲)・シチリアーナ(作曲者不詳 16世紀頃)・パッサカリア(ルドヴィコ・ロンカッリ作曲)の4曲からなる。

・ブラームス:弦楽五重奏曲第2番ト長調 op.111 (弦楽合奏編)

弦楽五重奏曲第2番は、ブラームスが1890年に作曲。全体にワルツの主題がちりばめられ、ロマの音楽が終末部に展開される。同年、彼は交響曲第5番の構想を練っていたが、頓挫してしまい、代わりに書き上げられたのが、この曲だ。そのため、第1楽章は非常にシンフォニックで、そびえ立つ様な構築があり、第2楽章はうって変わって、ハンガリー風なエレジー。第3楽章も哀愁を湛えた舞曲風で、第4楽章では再び気分を高揚させる。斬新な和音も挙げられるが、ブラームスはこの曲の原稿を出版商に送った際、『この手紙とともに私の音楽に別れを告げてもらいたい―やめる時が来たのは確かなのだから』と伝えた。引退の決意は、創作能力の衰えや、時代の潮流から取り残されたことを感じたからだろうか。確かに、この曲はそれまでのブラームスらしさは幾度も見られても、以前のようなほとばしるインスピレーションに満ちてはいない。しかしその後、彼の創作の意欲は復活し、名曲を残した。作曲活動の転機となるこの作品は、晩年らしい洗練された書法に基づくが、ブラームスの内的な苦悩も隠れている。そして何より、様々な生の喜びに満ちた朗らかな音楽である。

追悼と懐古、そして生きる喜びへ…2022年6月、世界情勢や社会、身近な人を想いながら奏する本公演。お聴きいただければ幸いである。

アンサンブル・フラン一同

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